パーキンソン病を恨み、悲しむ友人

 今月12日、首都圏在住の高校同期会がある。このところ毎年行われている。70人余に案内を出し、出席者は25人前後。必ずしも出席率はよいとは言えないが、毎回久しぶりに出席という人がいて盛り上がる。また、毎回鬼籍に入った同期生の名が読み上げられ、むなしい思いもしている。
 先般、同じ市内に住む同期生のNさんから電話があった。「俺、同期会に出たいけどさ、うまく歩けないんで一緒に行ってくれないかなぁ」。「オーケー、じゃ、隣の駅で待ち合わせて一緒に行こうぜ」と応対。待ち合わせ時間も決めて、あとは当日出かけるばかりとなった。
 が、彼は電話を切らないで、「実はさぁ・・・・」と話を続けた。「俺、パーキンソン病に罹って暫くなるけど、このところ症状がが進行して、特に今年に入ってから、よく転ぶし、足の震えはあるし、時には一瞬全身が動かなくなることもあった。参ったよ」。そう言えば、去年の同期会の時、少し歩き方が不自然に見えた。しかし、すぐ転ぶような感じではなかったので、特にそれ以上の心配はしなかった。
 「それで、医者には、遠くに出かけるときは必ず付き添いをつけるように言われている。俺も自信がないので、今回はあんたに甘えて連れて行ってもらいたいんだ。頼むよ」と彼は何度も繰り返した。「えっ、そうとは知らかったなぁ。でも、駅や電車は人ごみで危ないので、そばにいてサポートするから大丈夫だ」と言って、電話を切った。彼の言う症状がまさにパーキンソン病を物語っていて、それは、厳しい難病の一つであるという。それでも同期会に出ようとする彼の熱意にすっかり心を打たれた。
 時を同じくして、81歳になる義兄が、最近よく転んではあちこち傷を負っている、と姉から電話があった。瞬間、それはパーキンソン病ではないか、と話すと、姉も同調して近く病院へ連れて行くという。義兄は、これまでほとんど病気に罹っていないし、よく食べて、野菜作りなどで体を動かしている。もし、パーキンソン病だとすると一体その病因は何なのか、人ごととは思えない心境である。
 その後、義兄は診察を受けた結果、「敢えて言えば、パーキンソン病の疑いはあるので、服薬して様子を見ましょう」と診断された。厚労省の発表によると、パーキンソン病の患者は14万5千人(2005年)で、中高齢者に多く、しかも、脳に関わる病気としてアルツハイマー病に次いで多いという。義兄もその一人になりかけているのだろうか。とすると、やはりますます他人ごとではない。
 きょう、Nさんからまた電話があった。「俺、やっぱり同期会に出ないことにした。この間、リハビリに行っている所で何回も転んでみんなに迷惑かけてしまった。急に脚が動かなくなってさ。よく、足がすくむ、って言うけど、それはこのことを言うんだよ。動かそうとしても動かないんだ。知らない人は、わざとそうしているように見えると思うよ。悔しい!」。
 同期会欠席という彼の意志は固かった。それは同時に、症状が重いことを自認せざるを得ないことにもなり彼の悔しさ、無念さは察すに余りある。彼は高校生の頃からもともと頑健で、昨年現役時代の永年精勤を認められ叙勲を受賞したばかりである。
 「残念だな、本当に。あとで同期会の様子を報告がてら二人で一杯やろうぜ」。「うん、ありがとう!」。少し、彼の声も大きく聞こえた。