おもしろい「新明解国語辞典」

 今、2011第65回読書週間(10月27日〜11月9日)であるが、読書ではなく、ある国語辞典のことを連ねて読書週間に捧げたい。その辞典は三省堂の「新明解国語辞典」である。第3版からお世話になっているので、かれこれ25、6年になる。何がおもしろいかというと・・・・。

新明解国語辞典 第5版

新明解国語辞典 第5版

 いか【烏賊】海にすむ軟体動物の一つ。十本の足が口のまわりに有る。敵に会うと、腹の中の墨をふき出して逃げる。食用。
 たこ【蛸】海にすむ、八本足の軟体動物。胴のように見える頭から、吸盤を持つ腕(=実は、足)が直接生える。外敵に襲われると、すみを吐いて逃げる。食用。(欧米人はあまり食べない)
 「いか」については、「足が口のまわりに有る」とか、「敵に会うと・・・・逃げる」と「いか」の習性が手に取るように分かる。「たこ」についても同じである。「・・・逃げる」の表現がおもしろい。他の辞典では「敵に会うと墨を出す」としか書いていない。(欧米人はあまり食べない)というのも「あ〜そうなんだ」と思わせる。他の辞典には勿論そのような記述はない。むしろ余計なことなのかも知れない。
 かも【鴨】ニワトリくらいの大きさの水鳥。首が長くて足は短い。冬北から来て、春に帰る。種類が多く、肉はうまい。
 あかがい【赤貝】海でとれる二枚貝の一種。貝殻は心臓形、肉が赤くてうまい。
 たい【鯛】深い海にすむ中形の硬骨魚。からだは平たくてさくら色。種類が多く、マダイは味がよく、めでたい時に使う。
 それぞれに、大きさや、形や色彩を記し、ずばり「うまい」と明記。「うまい」か「まずい」かは人によるものなのに・・・。第5版の編者は金田一京助(故人)ほか5人。数学関係に明るい山田明雄はじめそれぞれ専門家ばかりだが、みんな寿司が好きで、よく食べているのだろうか。同じ三省堂の「大辞林」や「国語辞典」は編者が違うこともあり、「うまい」の記述はない。 
 れんあい【恋愛】特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと。
 おもしろさを通り越して、辞典を飛び越えて、文学の世界へ引き込まれそうだ。ここでも、辞典編者たちの恋愛経験を推し量りたくなった。この記述を分かろうとするか、煩わしいと思うか・・・。ある辞典では「男女が恋い慕うこと。また、その感情。」とだけ。 
 辞典は事実をいかに客観的に記述しているかが問われる。「新明解国語辞典」はその使命を満たしつつ、食べると「うまい」とか、大きさを表すのに「ニワトリ」を例にしたり、外敵を恐れるいかなどの小動物が他を「襲う」のではなく「逃げる」習性があることなど、実に丁寧で、わかりよい。時には、おもしろおかしいくらいだ。辞典・辞書は「引く」のではでなく「読書」するものである、と語りかけているようだ。とにかく、おもしろいのですっかりはまりこんでいる次第。
 掲載したいくつかの例は第5版によるものである。すでに、第6版が出ているので小遣いを貯めて買い求めたい。辞典も日々進化・深化を求められる時代ゆえに、楽しみである。
 なお、平成8年に、赤瀬川原平が「新解さんの謎」(文芸春秋)を著していて、この辞典の面白さを解明している。