クリスマスコンサートへ〜穏やかな新年を!

 昨日、東京六本木のサントリーホールで、東京ヴィヴァルディ合奏団によるクリスマスコンサートがあった。毎年この時期に行われているが、今回は、大震災に見舞われた年であり、亡くなられた人々への鎮魂(ミサ)を込めたコンサートであった。
 オープンニングは、クリスマスソングをジャズ風にアレンジして数曲。身体を揺すりながら、和らいだ雰囲気で・・・。ふだんは弦楽12名の合奏団であるが、オルガンとパーカッションを加えての演奏。その後の、コレルリの「クリスマス」からは本来の演奏に。
 また、今回はゲストとして招かれたカウンターテナー・松村稔之さんの歌唱も圧巻だった。バッハ=グノーの「アヴェ・マリア」や、「オーベルヴィリエの村人たちが、どんなにか辛い一年の出来事があっても、クリスマス・イヴ(ノエル)には全て忘れて幸せの一時を過ごせる」というフランシス・レイの「オーベルヴィリエのノエル」。
 さらに、カッチーニの「アヴェ・マリア」、ロイド・ウェッバーの「レクイエム」、イギリス民謡「恋人に林檎を」など。普通のテナーよりもさらに高音で、研ぎ澄まされた声楽は「ノエル」にふさわしく、コンサートを盛り上げてくれた。彼は芸大大学院修士課程独唱科在学中の23歳。日本には著名なカウンターテナーは数人しかいないそうで努力家の彼の将来に期待したい。
 東京ヴィヴァルディ合奏団は今年創立50周年を迎え、記念演奏会が始まったばかりの3月、震災が起こった。4月に予定していた定期演奏会は急遽、大震災支援コンサートに切り替えて、いち早く支援活動を開始するなど社会との連帯を重要視している。その精神があればこそ「50周年」なのかも知れない。これもこの合奏団の代表兼音楽監督である渡部宏さんのポリシーに拠る所が大きい。
 チェロ奏者・渡部宏はチェロの神様と呼ばれたパブロ・カザルスの「鳥の歌」を独奏。彼が最も得意とする曲で勿論暗譜演奏である。崇高な雰囲気が漂った。この曲はカザルスの故郷、スペイン・カタロニア民謡のクリスマス・キャロル。キリストの誕生を鳥たちが純粋に喜び祝い歌う様子をあらわしているという。
 当合奏団は団名通りヴィヴァルディ・トーンを追求すると共に、巨匠ヴィヴァルディの遺した膨大な数のヴィルトゥオーソ作品を紹介するという使命を担っている。どちらかと言えば硬派の室内合奏団。また、若手を積極的に全面に出して、育成に努めている。
 今回は、ヴィヴァルディの四季より「冬」を演奏。やはり、合奏団が力を入れている曲の一つ。お馴染みのソネットは司会とトークルー大柴さんが朗読。
 冷たい雪にガタガタ震え はげしく風が吹く中を 足早に駆け抜ける あまりに寒いので 歯の根が合わずガクガク鳴る  暖炉で人々がくつろいでいる間に 万物は恵みの雨ですっかり潤う・・・・・
 [四季]の中でも人により好みがあるようで、私は「春」と「冬」がいい。冬は第2楽章に癒される思いがする。そして、春は寒さから解放された息吹を感じる。ヴァイオリンは芸大大学院2年在学の桜井大士。彼も将来の合奏団を率いる演奏者の一人で、繊細ながら余裕がある。
 来春1月15日のニューイヤーコンサートでは、ヴァイオリニスト・藤原浜雄さんをゲストに迎え[四季]全曲を演奏することになっており、楽しみである。
 政治・経済はもとより、心の糧となる音楽をはじめとする芸術・文化は大震災があって不穏な時こそ人間には必要である。そして、国も、人々も安泰で、冬の寒さも程々の良い新年を迎えられるよう祈ろう。
   国安く 冬ぬくかれと 願ふのみ  虚子  


サントリーホール             東京ヴィヴァルディ合奏団