後藤純男美術展
1月10日、そごう横浜店そごう美術館で開催されている「後藤純男美術展」を妻と鑑賞してきた。後藤画伯は今年画業60年になり、また、北海道上富良野町の後藤純男美術館開館15周年にあたり、それぞれを記念して開かれている。画伯が生涯追求している3つの主要テーマである北海道風景・大和路・中国風景を描いた大作40点余が展示されていた。
北海道風景では、厳冬の中にも春を感じさせる「流氷の春」「雪の舎里岳」、そして特に8mにも及ぶ大作「十勝岳連峰」に目を奪われた。この作品は上富良野町の美術館からパノラマ的に見える雪の十勝岳連峰を描いたものである。私も同美術館を訪ねた時にこの風景を見ている。しかし、この絵の十勝岳は実際の姿に、永年人々が崇めてきた神々の山の姿を想像したものを描き加えているという。
大和路の寺院風景は画伯の最も得意とされている分野である。枝もたわわな桜に覆われた寺院や雪の寺院も特徴的。40代の作品、法隆寺全景を描いた「残照」は崇高そのものである。1985年、第70回院展出品「新雪嵐山」(180.0cm×366.0cm)はあまりにも有名であるが、原寸大をあらためて目の当たりにして圧倒された。
後藤画伯は、真言宗住職の父親の跡を継ぐため13歳から僧侶の修行を始めたものの、絵を描くことが大好きだった。そのことを知った父親は我が子の仏道をあきらめて、画業への道を奨めたという。画伯は、著名な日本画家に師事する傍ら、父の宗門の関西や四国の寺に寝泊まりさせてもらい、スケッチ旅行をした。それが大和路寺院風景の作品を生むもとになっているのかも知れない。勿論、仏道を断ったものの神仏に対する畏敬や信仰はむしろ深まり、強かったのではないだろうか。
後藤画伯は中国にも足を運んで悠久の歴史を感じさせるスケールの大きな作品とのどかな田園風景を描き、作域に広がりをもたらしているという。その代表作品ともいうべき、なんと14mもの「雲海黄山雨晴」(1984年作)にはただただ驚嘆。絵の右側からゆっくり見ていくと、黄山(高い山の意味)ゆえに霧が立ち込めて荒涼としている。さらに歩を進めるとほのかに明かりが差し込んできている。そして、左端へ向かうと雲間から太陽が覗いている。一つの絵で気候の変化まで一望できるというスケールの大きさ。
後藤純男画伯は82歳。32歳にして院展に初入選来60年になる。院賞、横山大観賞、文部大臣賞、内閣総理大臣賞など数々の賞を受賞され、院友、日本美術院同人、特待(無監査)に推挙されている。東京芸術大学美術学部教授も務め、2006年には叙勲を受章されるなど、名実ともに今や日本画家を代表する第一人者であると思う。
なお、そごう横浜の後藤純男美術展は1月25日まで開催されている。