「ゆとり世代」の内村航平くんたち

 ロンドン五輪はきょうが7日目、いよいよ佳境に!体操の男子個人総合で内村航平(23)が堂々の優勝。それも28年ぶりということもあって、たいへんな偉業だ。北京五輪銀、世界選手権3連覇の内村でも「夢のようだ」と語った。それというのも、今回は、予選で失敗を繰り返し総合は9位だったので必死だった。
 水泳で大きな注目を集めたのは、100m・200m平泳ぎで五輪3連覇に挑戦した北島康介。内村たちの少し先輩に当たる世代だが、いつでも「金を取る」と宣言して大会に臨み、その通り実現している。しかし、今大会は思うようにいかず5位、4位に終わった。北島は自己記録を出したがそれ以上にレベルが上がって、残念ながらついていけなかった。それでも、後輩の若手、立石諒(23)が北島と競り合い3位に入賞したので「自分は悔いがない」と、兄貴分としての存在感を示した。
 男子、女子サッカーも世界の強豪を破り、今や世界にその強さを知られるようになった。勿論、いずれも20代の若手選手が中心で、世界の大舞台にも臆せず堂々戦っている。テニスの錦織圭(23)も強豪相手に勝ち進み、88年ぶりのベスト8に。女子アーチェリーは団体戦で銅メダルに輝いた。大学生を含む若手の美女たち。笑顔を見せながら、それでいて集中できるのもこの世代の特性なのかも知れない。
 ロンドン五輪はきょう現在、日本は総メダル数は17個で、中国、米国に次いで3位である。このあともいくつか期待されている。活躍しているのはすべて内村世代の20代の若者たちだ。
 1989年(平成元年)、文部省はいわゆる「ゆとり教育」の教育課程を発表し、3年後の1992年から完全実施することを決定。これは、当時の教育は、詰め込み教育、偏差値教育、画一教育などと問題視されて、それが落ちこぼれを出し、生徒指導上の問題が多発し、学校が荒れる遠因になっていると指摘された。
 そこで、もっとゆとりのある学校教育にすべきだとして、小学校では、教科の授業を生活科や総合的な学習の時間にまわした。年間授業時数も30年前に比べると140時間も減って945時間になった。国語の場合、245時間が175時間に。
 中学校でも同様に授業時数は削減された。選択教科やその選択幅が拡大されて、生徒のニーズを重視するカリキュラムになった。その10年後の2002年からやっと欧米先進国並みの小・中ともに学校完全5日制が施行され、名実ともにゆとりを感じる学校生活になっていった。
 内村航平くんは1989年1月生まれ。当然、小学校に入学したころは「ゆとり教育」が定着して、子どもたちは個性重視の伸びやかな学校生活を送っていた。生活体験や創造性を発揮できる生活科や総合的な学習の時間は子どもたちにとっては個性・特性を認め合うというこれまでにない楽しい授業であった。
 「ゆとり教育」完全実施の1992年に小学校へ入学した子ども達は今は26歳である。その前後の子どもたちが「ゆとり世代」と呼ばれている。オリンピックという大舞台にも動じない心身は『ゆとり時代」に培われたのではないだろうか。
 世界に通用する成績を残すためには、体力・技術・根性優先の選手養成だけでは限界があり、いざというときの精神的拠り所となる心のゆとりが必要だと思う。それはゼロ歳からの家庭教育や成長著しい小・中学校時代のゆとりのある教育に負うものが大きい。 学力本位の詰め込み教育では不可能だろう。
 「ゆとり教育」は不評のうちに終わったが、子どもたちはそれまでにない伸びやかな教育により将来的に心豊かな人生を送れるよう願ってやまない。
 指導者は選手たちの初等中等時代の教育を弁えて、個性や特性を最大限に引き出すよう指導にあたってもらえたら若者はさらに大きな力を発揮するであろう。文科省は再び学力重視教育に戻そうとしているが何年か後のオリンピックは大丈夫だろうか。