読書アラカルト(9)「希望の木」 新井 満著

 この書に私は陸前高田市に住む同期生のKさんからプレゼントされて出会うことになった。高田松原の「奇跡の一本松」が主役の写真詩集である。著者は「千の風になって」の新井満さん。早速、詩の一部を紹介することにする。挿入写真は私が先般同所を訪ねた時に撮ったものである。
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わたしは、松の木です。海辺に、一本だけ生えている松の木です。 でも、ついこのあいだまでは、たくさんの仲間たちと一緒でした。
 
日本の東北地方、岩手県陸前高田市。太平洋に面した海岸には、それは見事な緑の松林が、弓形につづいていました。 その名も、“高田松原”。 松の木の本数は、七万本。
植林が始まったのは、今から三百五十年前も昔。江戸時代の初期のことでした。そんな大きな松林が、今ではどこにも見当たらないのです。この世からあとかたもなく消えてしまったのです。わたしひとりだけ残して・・・。

わたしは、松の木です。海辺に、一本だけ生えている松の木です。わたしは、ひとりぼっちです。とても、淋しいです。泣かない日は、一日もありません。
いやです。たったひとりで生きてゆくなんて、そんなの、絶対いやです。 どうしてわたしはあの時、父さんや母さんたちと一緒に、津波にさらわれなっかったのか・・・。 もしあの時、家族たちと一緒に死んでいたならば、こんなに淋しくつらい思いをしなくても済んだろうに・・・  
 
時間が、流れてゆきます。季節が、流れてゆきます。ゆっくりと、しかも確実に。 昨日の夜空は、美しかったなあ・・・。 満天の銀河と、虹色の流れ星。 今朝の夜明けも、美しかったなあ・・・。 水平線から昇る、真紅の太陽。 あまりの美しさに、涙がこぼれてとまりませんでした。
 
 本書は一冊につき100円の復興応援金が陸前高田市に送られる。また、著者の新井満さんも初版印税全額を同市へ寄付する。定価1100円+税。大和出版。
 とにかく、よくぞ津波に耐えて生き残ったものである。人間もこの一本松と全く同じつらい思いをしている。人間の分まで生きているのだ。だから、毎日たくさんの人々が訪れて「がんばれ!」と励ましている。悲壮感が身をよぎった。
 しかし、残念ながらこの「希望の木」も根っ子が塩害によりかなり衰弱しており、生存が危ぶまれているようだ。