アメリカの国民性

 1994年(平成6年)の11月、私は現職研修として16日間アメリカ・メキシコへ派遣されるという機会に恵まれた。研修中に6日間ホームスティが組まれていて、私はフロリダ州メルボリン市の James 家にお世話になった。30代前半の夫 James 、妻 Donnaと5歳の娘 Julia,そして72歳の Jerry(Donnaの父)の4人家族。
 たまたま、アメリカの中間選挙が行われていて、TVや新聞、街頭は選挙一色。民主党ビル・クリントンが大統領に当選して2年目で、民主・共和両党の上・下両院、州知事、首長、地方議員等の選挙(改選)でアメリカが熱くなっていた。
 食事のあとは選挙が話題に。私は「アメリカは自由と民主主義が定着している」と言うと、James は「自由はそうかも知れないが民主主義はねぇ〜」と政治のあり方に不満だというのである。彼は福祉政策を例に取りその理由を説いた。
 If you give a man a fish, he will eat today. If you teach a man to fish, he will eat forever.
 彼は「前者が民主党の政策で、後者は共和党の政策である」と言い、共和党を支持すると明言した。「前者は、ただ単に国民に魚を与え、食べてもらうだけで、現実的だがその日暮らしにすぎない。後者は、まず魚の捕り方を教えれば、一生涯食べていけるようになるという、長期的展望がある」と説明した。よって、福祉政策は共和党の考えが真に国民を大事にし、民主的だ、と。
 アメリカの大統領は例外もあるが2期8年が多い。クリントン民主党)の前大統領のブシュ(共和党)は1期4年で交替したので、国民は政策の転換に戸惑っていたのかも知れない。Donna とJerry は民主党支持。家族がこのように意見を言い合うのはごく普通で、政治への関心の高さが覗えた。
 James は私に「朝6時からのTV-Show」を見るように奨めた。ニュース番組を聴き取れる英語力はないが、見ることにした。日替わりで派手なネクタイで有名なキャスターのニュース解説はお見事。たくさんのデータを示し、さらに各地から市民の声を取り入れている。アッという間の30分番組。翌朝から3〜4回見た。どうやら、共和党が有利の情勢。
 James のおかげで、選挙の争点や家族個々の意見が分かって、まさに生きたいい研修になった。自由と民主主義を堅持するために互いに議論して、より高く、確実なものにしていく国民性がすばらしい。
 ところで、選挙結果はどうだったのか。当時の記録によると、上院・下院、州知事ともに共和党が大勝。州知事選の地元フロリダ州では民主党の現職が3選されたが、ブッシュ前大統領の二男 J・ブッシュ(共和党)も大健闘。当時、これでは民主党クリントン大統領の再選は相当にきびしいと言われたが、2年後再選された。

 アメリカの話は郷愁的な思い出になりかけているが、民主主義思想に関しては国民個々に学ぶものが多いと思う。だからこそ、いろんな問題を抱えながらも強力なひとつの国家として世界に名を馳せているのだろう。
 その原点は、主権は人民にあり、その人民の意思で政治を行なってくれる為政者を選ぶことに熱心なことではないか。即ち、民主主義が根付いている証左であろう。我が国では、きのうまでに民主党の代表選挙と自民党の総裁選挙が行われたが、民主主義を語るレベルとは言えず、悔しい思いをしている。そんなタイミングで18年前のアメリカの選挙光景を紹介した次第である。