読書アラカルト(11)「読書の技法」  佐藤 優著

 著者の佐藤優(まさる)は1960年「昭和35年)東京都生まれの文筆家、53歳。1985年、外務省入省。英国・ロシア各日本大使館勤務後、本省国際情報局分析第1課主任分析官として対ロシア連邦外交担当。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で東京地検特捜部に逮捕され、2009年最高裁で有罪が確定し、外務省を失職。「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」「自壊する帝国」などで各賞を受賞。他にも「獄中記」「交渉術」など著書多数。

 著者の蔵書は、自宅、自宅近くの仕事場、箱根の仕事場に約4万冊。収納スペースは全体で7万冊分あるというから驚きだ。献本が月平均100冊、新刊本70〜80冊、古本120〜130冊購入。月およそ300冊のうち、熟読するのは平均4〜5冊、それ以外は、1冊5分の「超速読」で240〜250冊。30分から2、3時間かけて取り組む「普通の速読]で50〜60冊を読む。
 著者の読書は、中学1年生から始まった。最初に読んだのは塾の先生に勧められたモーパッサンの「首かざり」。登場人物の虚栄心に驚き、それが読書を面白いと思った最初の経験だったという。その後、「晩年」「破戒」「蒲団」「こころ」、さらに、フローベル、カミュツルゲーネフチェーホフなど世界文学へ。
 高校では、「共産党宣言」「空想より科学へ」「世界大十五哲学」「壁」「方法の問題」など哲学書が中心で小説は減ってきた。
 大学は神学部に進学し、読書は哲学と語学関係に絞り、英語、ドイツ語はもとより、ラテン語ギリシア語、ヘブル語、チェコ語朝鮮語を勉強した。大学6年間で600〜700冊も読んでいる。入省翌年の1986年には英国陸軍学校でロシア語、1987年、モスクワ大学でもロシア語の研修。1988年からモスクワの日本大使館勤務。
 外国の外交官の中には大学の教授も務められるインテリがいて、よく「最近読んで面白い本は何か」が話題になる。読んでいる本によって外交官としての資質が問われるという。「ノルウェイの森」(村上春樹)を読んだイスラエルの外交官は、主人公のワタナベよりも寮の先輩で外交官になる永沢について、「ああいうタイプの人が日本の外務省に多いのか」と尋ねられ、読書の有用性を実感させられたという。
 ちなみに、著者は、外交力をつけるために、また語学力を高めるために日本の小説の外国語訳を読んでいる。「海辺のカフカ」(村上春樹)のロシア語訳、「沈黙」(遠藤周作)の英語訳、[吾輩は猫である」のドイツ語訳など。
 著者は、最近の教養ブームの背景には「知力を強化しなくては生き残って行けないのではないか」という日本人の集合的無意識が反映している、と分析し、知力をつけるためには不可欠なのが読書である、と考える。タイトルは「読書の技法」になっているが、物の見方、考え方、表現の仕方まで視野に入れているので、知の技法についての入門書と考えていただきたい、と断っている。
 確かに、技法もさることながら著者の生き様が語られていて圧倒される書である。「読書のための読書ではなく、知識のための知識ではなく、国家と国民の生き残りのためにそれらは使うべきである」と語るあるインテリ外交官の考え方を紹介している。それは著者の考え方でもあると思う。技法はそのためにある、と。
 本の重要箇所をノートに抜き書きし、コメントを付けておくことや思いついたことや疑問は本の余白やノートに書き込むこと、あるいは、読みながら重要箇所には線を引いたり、囲んだりするなどの技法は真似できそうだ。
 著者は、「事件」がなかったらどんな外交官になっていただろうか。
 本書は、定価1500円+税 東洋経済新報社