「祝婚歌」に感興

 「祝婚歌」の詩で知られる詩人の吉野弘さんが1月15日、静岡県富士市の自宅で亡くなった。享年87歳だった。これは、作者が姪の結婚式に出席できないために、姪夫婦に書き送った詩であるという。この詩が世に知られると、結婚式ではスピーチに多用され、新婚夫婦はもとより参列者に深い感銘を与えた。
      二人が睦まじくいるためには 愚かでいるほうがいい
      立派過ぎないほうがいい 立派過ぎることは
      長持ちしないことだと 気づいているほうがいい 
      完璧をめざさないほうがいい 完璧なんて不自然なことだと 
      うそぶいているほうがいい
      二人のうちどちらかが ふざけているほうがいい ずっこけているほうがいい
      互いに非難することがあっても 非難できる資格が自分にあったかどうか 
      あとで疑わしくなるほうがいい
      正しいことを言うときは 少しひかえめにするほうがいい 
      正しいことを言うときは 相手を傷つけやすいものだと 
      気づいているほうがいい
      立派でありたいとか 正しくありたいとかいう 
      無理な緊張には色目を使わず 
      ゆったりゆたかに 光を浴びているほうがいい
      健康で風に吹かれながら 生きていることのなつかしさに 
      ふと胸が熱くなる そんな日があってもいい
      そしてなぜ胸が熱くなるのか 黙っていてもふたりには
      わかるのであってほしい
 吉野さんの訃報に併せてこの「祝婚歌」を一斉にメディアが伝えた。我が家でも夫婦で何度も読み替えして「これは我が老夫婦に今、これから先も必要なことばかりだね」ということで一致。特に、妻は「正しいことを言うときは・・・」のくだりを、私は「互いに非難することがあっても・・・」のくだりを反省した。
 この詩は、夫婦にかぎらず個々の人間性や対人間関係を培う上でも貴重な教訓が含まれているように思う。翻って言うならば、政治家同士、あるいは国と国が互いに非難し合っている昨今、「自分にその資格があるのか」と胸に手を当ててみてはどうか。「祝婚歌」には人生の機微、人情の機微に触れるくだりがたくさんあり、今や新婚さんだけへのメッセージではないと思うからである。