51対49

 臨床心理学者河合隼雄の著書「こころの処方箋」(1992年1月25日発行 新潮社)に、カウンセラーの心得として次のようなくだりがある。
 心のなかのことは、だいたい51対49くらいのところで勝負がついていることが多いと思う。51対49というと僅かの差である。しかし、多くの場合、底の方の対立は無意識のなかに沈んでしまい、意識されるところでは、2対0の勝負のように感じられている。サッカーの勝負だと、2対0なら完勝である。従って、意識的には片方が非常に強く主張されるのだが、その実はそれほど一方的ではないのである。
 カウンセラーのところへ来る人は、人の助けなど借りるものか、という気持ちと、藁にすがってでも助かりたい、という気持ちが共存している。ものごとをどちらかに決める場合は、たとえば、「助けを借りたい」という方が勝つと、それだけが前面に出てきて主張される。しかし、実際にはその反対の傾向が潜在していて、それは、51対49と言いたいほどのきわどい差であることが多い。
 相談者は、たいてい2対0、という意識で話されるし、それはまったくそのとおりでうそではないのだが、受けとめる側としては、出来るだけその底にある深い事実の方も見るようにしなくてはならない。(要約)
 カウンセラーに限らず一般的にたいへん参考になるまさに臨床的な心理学である。意見が対立すると相手を恨んだりするだけで、少しも理解しようとしなくなることがよくある。こんな時、「所詮、51対49の差なんだ」と思えたらもっと落ち着いて対応できるであろうと思う。遅まきながら、心したい。
 ところで、きのう、衆議院議員選挙があり、自公が3分の2を獲得し、野党を大差で破った。自公の与党は数の上でどんなことでも野党を制し、無人の広野を走り続けることができるのである。しかし、与党と野党の差は、国民の心の中ではそれほどの大差であろうか。
 安倍さんは与野党の政策的な争点がないまま、大義なき解散をした。しかも、野党の選挙準備が整わないうちの抜き打ち解散でもあった。案の定、予想通り自公の大勝という結果であった。よって、国民の目には、2対0、の勝負に見えてしまう。
 そこで、安倍さんにお願いしたいことは、今回の解散に疑義が多いこと、低投票率であることも含め、日本国民は圧倒的に自公を支持しているものではないことに思いを馳せてほしい。こんなに大差がついても国民は冷静である。何故か。国民は「心の底では、せいぜい51対49の差である」と信じているからである。どうか、野党や反安倍さんと思われる国民にも寄り添って、より民主的な国政を担ってもらいたいものである。敢えて「51対49」を謹呈させてもらおうと思う。