読書アラカルト(17)「知っておきたいこの一句」 黛まどか PHP文庫
初版は2007年6月18日。私もすぐに購入してずいぶん愛読し、いろんな機会に活用させてもらっている。手紙やあいさつ、講演などで。著者は若き女流俳人。研ぎ澄まされた感性で、自ら日頃愛誦する小林一茶、正岡子規、松尾芭蕉、中村汀女、高浜虚子など各作者の名句を紹介し、その解説が読者の心を豊かにしてくれる。四季ごとにまとめてあり、ここでは「春の句」と解説例を紹介する。
春の鳶寄りわかれては高みつつ 飯田龍太(1920~2007年 山梨県旧境村生まれ)
鳶の恋の情景を詠ったものです。雌雄二羽の鳶が、春ののどかな空をほしいままに、寄ったりわかれたりして睦んでいるのでしょう。この句のテーマは、成就への高み、飛翔です。そこにはおのずと作者である竜太先生の志の高さが表れていると思います。相寄ったり離れたりしながらも、常に高みを目指していく精神。恋にかぎらず、日々かくありたいと思う私です。
外にも出よ触るゝばかりに春の月 中村汀女(1900~1988年 熊本県生まれ)
月の面に自らの心を映すように立ち尽くす作者。汀女によって十七音の器に盛られた春の月は魔法にかけられたように、神秘的な輝きを持ち始めます。汀女の豊かな詩情に触れると、季題が俄然その存在感を大きくし始め、季語の本質が余すところなく引き出されます。
雪とけて村いっぱいの子ども哉 小林一茶(1763~1827年 長野県生まれ)
雪国にようやく遅い春が訪れました。遠景描写でありながら、春光を受けて輝くばかりの子供たちの笑顔が見え、また賑やかな声までもが聞こえてくるような一句です。誰にでもわかる平明な表現の中に、溢れんばかりの春の喜びと、子供たちを見守る愛情深い眼ざしがあり、読者の心を捉えます。
家々や菜の花いろの燈をともし 木下夕爾(1914~1965年 広島県生まれ)
菜の花畑に囲まれるようにある集落。一面の花菜明かりに浮かび上がるようにある家々。その窓明かりの一つ一つに菜の花の黄が及んでいて、花菜明かりと一体になっています。“菜の花いろの燈(ひ)をともし” は詩人木下夕爾らしいレトリックなのです。
- 作者: 黛まどか
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2007/06
- メディア: 文庫
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