清原問題が問われていること 

 覚せい剤を所持していたとして逮捕された元プロ野球選手の清原和博容疑者。その衝撃が野球ファンの胸中を駆け巡り社会問題化している。高校時代からホームランバッターとして注目され、ドラフトでは巨人入りが濃厚だったが指名されず西武ライオンズへ。
 しかし、彼は西武で新人時代から大活躍して日本一になるなど、ドラフトのウップンを充分に晴らしていたはずである。遅まきながら憧れの巨人へトレードされ、ここでも活躍した。彼は名実ともにプロ野球選手としての実績を残しており、引退後は指導者としての道が開かれていた。
 ところが、現役を去り、野球解説や講演をしていた彼は逮捕される前から「俺から野球を取ったら何も残らない」と嘆いていたという。現役の野球選手時代が彼の人生のすべてであり、現役を終えた時点で人生を終えたようなもので「どう生きていったらいいのか、分からない」というのである。その他に家庭のことでも悩むことがあり、それらに耐えかねて薬物に依存するようになったのか?
 どんな理由があっても覚せい剤に手をだすことは断じて許されないが、前述のとおり、彼の場合、現役を去っても生きる道はたくさんあったのに、彼はその術を全く知らなかったのではないか。誰も教えてくれなかったのではないか。現役時代は、試合が終わると金には困らないので好きなように遊んで過ごしていて、おおよそ一般社会人とはかけ離れた生活をしていたかも知れない。
 高校や大学を卒業したばかりの野球選手が数千万円ないし億単位の契約金を手にする。実績により、数年で億単位の年俸を得る選手も出てくる。もちろん、逆に年俸は下がる一方で生活に困窮する選手もいる。近年では野球賭博も発生しているし、退団して途方に暮れている選手もいると思う。清原問題はまさに象徴的で、毎年、このような問題が大なり小なり繰り返されているのにコミッショナーや球団はどんな選手教育をしてきたのか、知りたい。
 今、プロ野球は春のキャンプ中である。各球団とも、新人はじめ数十人の選手がほぼ一日中、野球漬けの生活を送っている。夕食後も練習する選手がいて話題にされることもある。しかし、せめて春のキャンプ中だけでもいいから練習後少なくとも週1回全監督、全選手を対象に現役、引退後、さらにその先の人生を見通した教育をしておくべきである。講師はいろんな分野から選び、人間としての生き方を学ぶ機会にしてはどうか。海外ではいろんな資格を取ってからプロ選手になっている例もたくさんある。
 これはプロ野球に限った話ではなくて、各スポーツ界で実施してもらいたい。「〇〇漬け」の選手養成は本番にも弱いし、現役を終えたらまさに「何も残らない」ことになるからだ。我が国も教養と人間味のあるスポーツ選手を輩出する時代を築いていく時ではないか。清原問題がそう呼びかけているように思えてならない。