栄華の移ろい

 4月1日付けで、国や地方の公共機関では全国的に大規模な人事異動があった。定年退職の日を迎えて「ホッ」としている人、栄進に胸を轟かせている人、大げさに言えば、まさに栄華の移ろいを物語っているような一日であったのではないか。現役時代、栄華を誇った60歳が一斉に退職したのである。
 民間会社でも同じように社内人事異動があり、退職者と新入社員が入れ替わり、そこにも栄華の移ろいを感じているはずである。社内では昇格や転勤、海外出張など厳しい現実に悲喜こもごもの4月1日だったのではないか。人事異動は人事刷新でもあり、それは会社の改革(イノベーション)にとって最も効果的な手法である。特に、トップの刷新人事は影響力が大きく、内外から注目される。
 ところで、新年度に当たり、入社式で社長は何を語ったか。会社経営に失敗した東芝とシャープの場合、原点に立ち返りゼロからのスタートを誓った。東芝社長「企業風土をより風通しのよいものへと改革する。法令や規則に違反する売り上げ、利益を必要としない」。シャープ社長「会社の経営理念を皆さんも読み返し、創業者の理念に近づけるようにしてほしい」
 マンションの杭工事で手抜きの批判を浴びた三井不動産社長「不祥事の殆どは常識の欠如に起因する。コモンセンスがしっかりしていれば、自然にコンプライアンスの体制がとれるはずだ」。免震ゴムなどの性能偽装を起こした東洋ゴム工業社長「当社が起こした問題は、当社に集う仲間にしか解決できない。一緒に夢の持てる明るく元気な会社に作り直していきたい」。各社新入社員はどんな気持ちで入社しただろうか。
 ホンダ社長「出る杭は打たれる、ということわざがあるが、出ない杭は腐る。出ない杭に未来はない。皆さんには出る杭になってもらいたい」。日立製作所社長「先読みして先手を打つ。それがビジネスの基本。変化をつかむ力を磨いて下さい」。楽天社長「今までのやり方にとらわれず挑戦者であり続けてもらいたい」。
 日本サッカー協会の副会長に抜擢された元全日本代表監督の岡田武史(59歳)さんの就任の言葉がいかにも新鮮だった。「日本では協会があってスポーツをやらせてあげている雰囲気がある。多くの愛好者がいて協会があるのが本来の姿だ」。岡田氏は、一時は協会から監督としての高い評価もされず、中国へ渡り監督をし、帰国後は地方で地道にサッカーの普及に努めていた人だけに協会「N0.2」はまさに抜擢だと思う。とかく、スポーツ団体は高齢者が幹部に居座り、人事刷新ができず改革が遅れがちである。「もう失うものは何もない」人を幹部にしていく時代であると思う。
 4月は新年度の始まりなので、どの組織体も人事異動や組織改革を発表する。私も十数年前までは人事異動の渦の中にいて、ときめいている時もあったが、今は初老にして衰えていくのみである。当時40代だった後輩たちが学校教育の中枢で活躍する人事を拝見し、栄華の移ろいを実感している。