読書アラカルト(22)「寝ながら学べる構造主義」内田 樹(たつる)著 

 著者は東大仏文科卒。神戸女学院大学教授、学長を歴任して退職。現在は同大学名誉教授。専門はフランス現代思想。武道家でもある。著書も多く、小林秀雄賞を受賞している。新聞にも辛口の批評などがよく載るが、全て「目からウロコ」である。この著書は、新聞の書評を読んで、時々耳にする「構造主義」とは何かを知りたくて書店で注文し購入た。平成14年6月初版、同28年4月第40刷発行というロングランのベストセラー。
 著者は「超カンタン現代思想入門」と言うものの、読んでみると「カンタン」どころか難解の連続。しかし、少しでも理解しようと同じところを何回も繰り返し読んで、分からないところはとばすことにした。ここでは、著者が噛み砕いて表現している「構造主義」について抜粋して紹介しておきたい。
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 私たちはつねにある時代、ある社会集団に属しており、その条件が私たちのものの見方、感じ方、考え方を基本的なところで決定している。だから、私たちは自分が思っているほど、自由に、あるいは主体的にものを見ているわけではない。むしろ私たちは、ほとんどの場合、自分の属する社会集団が受け容れたものだけを選択的に「見せられ」「感じさせられ」「考えさせられている」。
 そして自分の属する社会集団が無意識的に排除してしまったものは、そもそも私たちの視界に入ることがなく、それゆえ、私たちの感受性に触れることも、私たちの思索の主題となることもない。私たちは自分では判断や行動の「自律的な主体」であると信じているけれども、実は、その自由や自律性はかなり限定的なものである、という事実を徹底的に掘り下げたことが構造主義という方法の功績なのです。
 レヴィ=ストロースは要するに「みんな仲良くしようね」と言っており、バルトは「言葉づかいで人は決まる」と言っており、ラカンは「大人になれよ」と言っており、フーコーは「私はバカが嫌いだ」と言っているのでした。べつに哲学史の知識がふえたためでも、フランス語読解力がついたためでもありません。馬齢を重ねているうちに、人と仲良くすることのたいせつさも、ことばのむずかしさも、大人になる必要性も、バカはほんとに困るよね、ということも痛切に思い知らされ、おのずと先賢の教えがしみじみ身にしみるようになったというだけのことです。年を取るのも捨てたものではありません。
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 17世紀〜20世紀前半にヨーロッパを中心に活躍した上記思想家たちは、「なんだそういうことだったのか」と思われることを常人よりも強く、深く追究していたが、当時は少数だった。しかし、「人間はどういうふうにものを考え、感じ、行動するのか」という問いに答えようとしていた。それによって構造改革の「地ならし」をし、現代に至るまで影響を与えている。
 私たちは日本に生まれ、育ち、今に至っている。日本という国の社会集団に属しているので、おおむねものの見方、感じ方、考え方はこの社会集団の感化を受けている。幸い、「仲良さ」「常識」を共有する国民性によって安寧な社会集団を築いている。もちろん、これですべていいとは思わない。より崇高な国民性を培うために、真に、自由と自律性をもって主体的にものを見られるようになっていかねばならないと思う。
 私はもう70代後半。この著書との出会いが遅すぎたので、ものの見方、感じ方、考え方をどれだけ変容できるか心もとないが、今だに未熟な人柄や人間性に鑑みて、何か生かせるものがないか、読み解いていくつもりである。そして、私も大人になって、「年を取るのも捨てたものではない」と言える時が来て欲しいものである。
文藝春秋社出版 690円+税


所用で出掛けるために駅へ向う途中、撮る。白、赤、紫の3色サルビア。紫は初めて。お馴染みのアオイが元気に夏を楽しんでいる。涼を感じたブッドレア(別名フサフジウツギ)。白やピンクもあるらしい。わずかな道のりで珍しい花に出会えた。そして、きょうは暑かった(33℃)ので駅前の広告に目が奪われた。