TRUMP旋風

 アメリカの次期45代大統領はトランプさんに決まって10日になるが、未だに世界中がトランプさんへの期待感と猜疑心で分断されたままである。選挙前、トランプさんの勝利の確率が20%で、クリントンさんが女性初の大統領になることが確実視されていた。しかし、開票するとトランプさんが圧倒的な勝利を収めた。完全に予想を裏切られた衝撃が世界中を駆け巡っている。
 何が予想を裏切ったのか。一つには、トランプさんの言動に国民やマスメディア、政治家、学者、知識人たちが翻弄されたことによる。パリ協定、TPP、NATOなどからの離脱、不法移民防止のために国境に壁を作る、日本はアメリカ軍のためにもっと軍事費を出せ、ロシアや中国と仲良くする、などオバマ政権と相反する構想を選挙戦で公言した。
 もう一点は、レーガン、ブッシュ親子等これまでの歴代大統領(establishment既得勢力)は「アメリカをよくしてくれなかった」とし、政治も行政の経験もない、つまり、establishmentでないトランプさんに賭けようとしたことである。対抗馬のクリントンさんは政治にも行政にも明るくestablishmentを代表する格好の人物であった。しかし、格差社会に苦しむ国民がestablishmentを非常に嫌っていることをマスメディア始め知識人は気づいていなかった。
 それにしてもである。非常識極まりなく、品格もないトランプさんが大統領になることはアメリカのプライドが許さないということか。実は、そこに盲点があった、と指摘する学者もいる。世界の「常識」の概念そのものが崩れかかっているのではないか、と。欧州の難民、イギリスのEU離脱、IS台頭などの問題は「稀なことはまず起きない」とする常識を超越している。トランプさんの非常識はやがて常識になり、新時代を予兆する存在になるというのが「期待組」の見方である。
 最も、トランプさんは選挙中の発言は単なる選挙運動の一環で、公約ではないと修正を試み、国民の不安解消に動き出しているが、グローバル化による弊害については危機感を抱いていて、TPPやパリ協定には抵抗するのではないか。グローバル化の行き過ぎが、不法移民や不公正貿易を生み、正当な労働を奪っていることが、アメリカ人が苦しんでいる元凶と訴えた。この訴えは大きな得票源につながったという。
 今はまだオバマ政権であるから、具体的な政権構想は発表していない。ともかく、選挙戦での言動が激しすぎたので、どちらかというと今に至っても猜疑心の方が強く、1月20日の大統領就任までは世界中が翻弄され、落ち着かない時間を過ごすことになりそうだ。