たのしみは・・・

たのしみは 朝おきいでて 昨日まで 無かりし花の 咲ける見る時  橘 曙覧

 これは江戸幕末の歌人国学者の橘 曙覧(たちばな あけみ 1812〜1868)が、身近な言葉で日常生活を詠んだ和歌です。

 橘は、越前国石場町(現、福井市つくも町)生まれ、生家は紙、筆、墨や家伝薬を扱う商家でした。2歳で母、15歳で父と死別し、23歳の時、家督を弟に譲り、自身は隠遁(いんとん)の道を選択。

 独学で歌人としての精進を続けるも、いかにも収入が少なく、妻子を養い清貧な生活に甘んじました。43歳、大病を患い、名を曙覧に改めます。1858年、万葉集秀歌選者。没後1919年 正5位追贈。

 橘 曙覧は52篇からなる歌集「独楽吟」を編んでいます。「たのしみは・・・」で始まり「・・・とき」で終わる形式でよんだ和歌集です。曙覧の生活や家族の幸せ、学問への態度などがよみ込まれています。その中から7篇を紹介します。

        

 たのしみは 妻子むつまじく うちつどひ 頭ならべて 物をくふ時

 たのしみは 空暖かに うち晴れし 春秋の日に 出でありき時

 たのしみは 心にうかぶ はかなごと 思ひつづけて 煙草すふ時

 たのしみは まれに魚烹て 児等皆が うましうましと いひて食ふ時

 たのしみは 銭なくなりて わびをるに 人の来たりて 銭くれし時 

 たのしみは 野寺山里 日をくらし やどれといはれ やどりけるとき

 たのしみは ほしかりし物 銭ぶくろ うちかたぶけて かひえたるとき

 

 清貧の中で、家族の温かさを一貫して描いている姿に心打たれました。ぜひ52篇を呼び出して鑑賞されますように・・・。 

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         今、満開の「あさがお」  やや小柄な花が毎朝咲きます