読書アラカルト(20)「感情的にならない本」 和田秀樹著 新講社

 近くの書店を覗くと、本書がランキング2位になっていた。帯に「白黒ではなく、薄いグレーか濃いグレーかと考える」とある。どちらかといえば私はこの考えに近い。しかし、白か黒かどちらかしか認めない考えの人が世の中には結構いるようなので、参考にすべくすぐ購入して一気に読み終えたところである。著者は著名な精神科医であるが大学で教鞭もとり、多数の著書もありメディアにも登場している。
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 心理学のことばに「曖昧さ耐性」というのがあります。文字通り、曖昧さにどれだけ耐えられるかという意味ですが、じつはこの「曖昧さ耐性」こそが認知的成熟度の大きな指標になってくるのです。人間はだんだん成長して認知的にも成熟してくると、白か黒だけではなく、その中間もあるのだとわかってきます。これは「グレーゾーンを認める」ということです。好きな人の中にも、ちょっと嫌いな部分があったり、嫌いな人の中にも好ましい部分があったりするのですから、真っ二つに分けることなんてできませんね。
 あなたといつもぶつかり、あなたをつい感情的にさせてしまう人がいたとします。そういう場合、認知的に成熟している人は「折り合えるところは折り合おう」と考えます。こういった考え方ができるのは、敵を黒ではなく濃いグレーと受け止めるからです。完全な黒ではないと受け止めることで、気持ちに少し余裕が生まれます。実際、職場には100パーセントの味方も敵もいないのです。いるのは「味方に近い人」と「敵に近い人」、つまり薄いグレーと濃いグレーです。
 「◯◯でなければならない」とか「◯◯すべきだ」といった決めつける考え方を「should思考」といいますが、問題は相手を黒と決めつけるところにあります。should思考の強い人は、「完ぺきでなければならない」とか「ベストをつくすべきだ」と考えます。それじたい、少しも間違いではありませんが、人間ですからコンディションの波もあるしうっかりミスも起こります。それは目標としては正しくても実現はむずかしいのですから、ほんらいは「完ぺきだといいな」「ベストを尽くしたいな」といった「wish思考」が自然なのです。
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 本書の一部を抜粋してまとめてみたが、「なるほど」と思うことばかりである。確かに、白か黒しか認めないと、自分の考えや行動が狭められて、対人関係も窮屈になるように思う。ここでいう「曖昧さ耐性」とは、自分の認知状態として、相手や周囲に対して曖昧なものも受け入れるということを意味している。つまり、「自分に甘い人」「大ざっぱだ人」という見方ではなく、認知的成熟度が大きいということになる。
 感情的にならないで、柔らかい人間関係を築くのに「ことば」の交わし方が大切であることも学んだ。感情的になっている対話の中でも「それもそうだね」「今はともかく」「なるほどなぁ」「ひとまず・・・」「そいう考えもあるね」「とりあえずやってみよう」「私ってばかね!」などなど。タイミングよく使うことで相手の感情を鎮めて冷静な判断を導き出すことができる。大事なことばはたくさん持ち合わせた方がいいし、それ以前に「曖昧さ耐性」を身につけておくことであろう。
 ところで、高齢の私が本書を読んで感じたことの一つは、「高齢者は感情的にならないように過ごすべき」ということ。感情に走ることは人間的に未成熟であることをさらけだすことになるし、精神的にもよくないので、ゆったりした安寧状態を維持することだ。そのために「曖昧さ耐性」を身に着けていくということになる。そして、「感情は本来人間同士がほんとうにわかり合うためにある」という著者のことばを改めて噛みしめておきたい。
 「感情的にならない本」新講社 800円+税 2013年11月22日第1刷発行 2016年1月12日第20刷発行 


この冬を越して開花した一年草のはずのペチュニア 右、紅かしわ大葉 紅色の葉がついているが大きくなるにつれて真っ青に変わる。そして枯れるときにまた褐色に変わる。