永遠の空の旅 “JET STREAM"

 遠い地平線が消えて、ふかぶかとした夜の闇に心を休める時、はるか雲海の上を音もなく流れ去る気流はたゆみない宇宙の営みを告げています。満天の星をいただく、はてしない光の海をゆたかに流れゆく風に心を開けば、きらめく星座の物語も聞こえてくる、夜の静寂の、なんと饒舌なことでしょうか。光と影の境に消えていったはるか地平線も瞼に浮かんできます。皆様の夜間飛行のお供を致しますパイロットは私、城達也です。

 これは、1967年7月、FM東海で放送開始した音楽番組 ”ET STREAM"(午前0時〜1時)オープニングの城達也によるナレーションである。BGMは、ミスターロンリー。スクリプト(放送台本)は堀内茂男。1970年4月からTOKYO FMに替わったが、スタイルは同じ。
 私は30代から時々ではあったが枕元で聴き入った。流れてくる映画音楽やポップス・ジャズ・シャンソンなどの軽音楽と共に城達也散文詩や旅案内のナレーションにはしびれた。演奏もポール・モーリアマントヴァーニ、ボストン・ポップスなど一流のオーケストラ。そのたびに、空への旅に駆り立てられた。
 音楽は、オリーブの首飾り、枯葉、男と女、死ぬほど愛して、ララのテーマ、エストレリータ、グラナダ、レット・イット・ビー、ロシアより愛をこめてエーゲ海の真珠、エマニエル夫人、シバの女王等々。こんな旅のナレーションもある。題は「追憶のベンチ」
 エディンバラのプリンセス大通りには本のベンチが並んでいて、背もたれに打ちつけたプレートに贈り主の名前と、ここにベンチを置く趣旨が刻まれている。「妻メアリーとの、楽しかった日々の記念に、ボブ。」かつて、この同じ夏を生き大通り公園の窪地を、緑に染まって歩いたメアリー夫人が今、椅子の形に休んで、同じ夏を迎えている。思い出のメアリーは、もう年をとることもなく娘時代の笑顔のまま、生き続けることになった。何という発明だろう。通りすがりの旅人も、その椅子でメアリーに会い、ボブが云う「楽しかった日々」のお裾分けにあずかることができるというのだ。
 今ここに、1984. 8.31放送の録音テープがあり久しぶりに聴いてみたら、市販されているCDよりもず〜っと生々しい。城達也の声も円熟している感じだ。ちなみに、この夜の「私のアルバム]は、レーモン・ルフェーヴル・グランドオーケストラによる「夜のストレンジャー」「ロミオとジュリエット」「ある愛の詩」「マイ ウェイ」「ゴット ファーザー」の5曲。いずれもお馴染みの音楽ばかり。
 城達也による“JET STREAM" は多くのファンと共に留まる所を知らない長者番組に。しかし、彼は食道がんに侵されていることが発覚し、「自分が思う通りの声を出せない」と自ら番組を降板することになった。1994年12月、最後の放送のナレーション。

 25年間私がご案内役を務めて参りましたジェットストリームは、今夜でお別れでございます。長い間、本当にありがとうございました。お送りしておりますこの音楽が美しくあなたの夢に溶け込んでゆきますように。では、皆さま、さようなら。

 何と、“JET STREAM" 初代パーソナリティ城達也はその2ヶ月後の1995年2月25日、逝去された。享年64歳であった "JET STREAM" はパーソナリティを替えてその後も長く続いていったが、私は城達也のそれしか聴いていない。今は、放送番組をもとに編集したCDを聴きながら、生放送時代と同じ至福を共有している。まさに、永遠である。