天満敦子・語りとコンサート

 一昨日、市内で天満敦子さんのコンサートがあった。相変わらず「居ながらにして」の感じの身なりで語り、演奏する天満さんの人柄に魅了させられた。
 コンサートの題名が「ストラディバリウスとの銀婚式」。天満さんはアントニオ・ストラディバリウスのヴァイオリンと出会って25年が過ぎ、ますます演奏活動に拍車がかかっているという。演奏がうまくいかない時でも「がんばれ]と励ましてくれる「いい旦那さんなの」とアントニオを称え、信頼している。「残念ながら私はこのような(人間の)旦那さんに出会えなかった」と笑いを誘う。
 今や、天満敦子と言えば「望郷のバラード」だ。1993年、天満さんはルーマニアを訪れた時に、ルーマニア出身、薄幸の作曲家チプリアン・ポルムベスクの遺作「望郷のバラード」を托され、日本人として初演するとたちまち評判になった。哀愁を帯び、美しい旋律は日本人の心を捉え、クラシックとしては異例の5万枚の大ヒットに。天満さんは「アントニオと望郷のバラードに出逢い最高の幸せを感じる」と語る。
 天満さんはその前年の1992年に日本の文化大使としてルーマニアを訪れたとき、輸血によりエイズに感染し余命いくばくもない子どもの枕元で演奏すると「少しずつ顔の表情が変わっていく姿に衝撃を受けた」という。音楽の魔力を身をもって思い知らされた瞬間だった。
 以来、天満さんは演奏先ではできるだけ病院や障害者、孤児院などの施設も訪ねて演奏している。もちろん、3.11の被災地にも・・・。彼女のお母さんは福島県相馬市のご出身で、親戚の人が幾人か行方不明だという。被災地へ行っても決して構えることなく、ざっくばらんに周囲の人々に接していく。震災を嘆いてばかりいないで「前を向いて生きていけるように」との思いで演奏。説得力がある。
 今次コンサートの演奏曲目は・・・。アダージョ(バッハ)、ヴォカリーズ(ラフマニノフ)、ユーモレスクドヴォルザーク)、タイスの瞑想曲(マスネ)、祈り(ブロッホ)、シチリアーナフォーレ)、望郷のバラード、ジュピター(ホルスト)、日本の曲として、この道、城ヶ島の雨、落葉松、見上げてごらん夜の星を、の12曲。
 ヴァイオリンの名器を生んだ Antonio Stradivari (1644〜1737)はイタリアの弦楽器製作者としてあまりにも著名。およそ1200挺のヴァイオリンを製作し、現存しているのは約600挺。勿論、かなりの高価。
 天満さんはアントニオとともに幸せな演奏活動をしているが、浮気をして「いい旦那さん」を見つけて欲しい。照れながら、飾らずに、本音を語る人柄は魅力的だ。勿論、演奏の腕前も。しかし、「私はね、聴いてくれた人に天満敦子のシミが残るような演奏をしていきたいの」と、私の心配など無用。彼女をさらに深く知ることによって、いいコンサートになった。