二つよきことぞ少なし

 今月1〜3日の3日間、かつて海外英語研修に参加した仲間7人と東京都内を散策した。この研修は1976年7月から2ヶ月間、主にカナダのUBC(University of British Columbia)で実践的な英語を学習し、その後アメリカへ渡り、Ohio州の中学校で教育実習をするというプログラム。全国から37人の現職の英語教師が参加、もう39年も前のことで、仲間たちは70代から80代になっている。
 このところ毎年、幹事持ち回りにし、幹事の出身地を訪ねて旧交を温めている。今回は、東京のKさんと千葉の私が幹事で、東京に集まってもらった次第。夜は一杯やりながら、近況報告をし合うのが恒例で楽しみの一つである。
 地元で合唱団を率いて長いAさん(福井)。自ら美声はまだまだ衰えず、名実ともに立派なリーダーである。近々、合唱団は福島県南相馬を訪れて演奏会をすることになっているという。団員はバスで移動することにしているが、Aさんは悩む。何年か前に、Aさんは脊柱管狭窄症を手術し、しばらくは痛みが無かったがここ数年、痛みが出てきて長時間の歩行や乗り物は辛いという。今回も杖を放さなかった。リーダーだけに、さて、どうされるのか。
 仲間では最年少のNさん(愛知)は、退職後はのんびりし、大好きな晩酌を楽しもうとしていたが、ここ数年来地元のいろいろな役職が集中的に回ってきて、身動きができない状況になった。行政区長、地区長会会長、市防災会議委員、市行政改革策定委員会副会長、市国際交流会理事、市スポーツ団体等互助会副会長、母校(高校、大学)同窓会理事・代表等々、なんと32の役職。4日に3日は会議に出ている有様。今時、日程的に3日間旅行ができたのは奇跡に近いという。「よく多忙というが、この状態をなんと呼ぶべきか」とNさんは訴えた。
 今時、参加者で最高齢のYさん(83歳、新潟)は、子どもたちも独立して家庭的には何も心配はないが、最近、膝や眼、さらに内蔵に異変を来たし通院している。食前、食後にたくさんの錠剤や粉薬を服薬する日々。しかし、どこもひどく痛いというわけでもないので、食前はうっかり忘れてしまうことが多い。「加齢による」とはいえ、こんなに何種類も、しかも多量に服薬することにショックを受けているという。Yさんはwitに富む方で「階段でつまずくのは当たり前で、廊下でつまずくのは老化現象」と皆を笑わせた。
 かく言う自分自身であるが、お陰さまで足腰は比較的丈夫で、いろんなスポーツができて幸せである。しかし、このところ案じているのは「バランスの悪さ」である。きょうは庭の植木の剪定をするために高さ1mほどの脚立に乗ったところバランスを崩し、地面にゴロリ。車庫入れも2、3回繰り返す。平面でつまずいたり、柱に体をぶっつけたり、と実に不安定。「加齢」にしても「ちょっとひどいぞ!」と嘆いている。
 ところで、世の中を見渡すと政治、経済、教育、文化なども問題や課題が多く、なかなかうまく行かないことが目立つ。改善の余地は多々あるにしても、個々人を含め「二つよきことぞ少なし」の現実を受け入れる覚悟をしつつ、改善、現状維持を図っていく努力が求められている、と思う。
 かつての仲間たちと再会して楽しい東京散策だったが、加齢、病気、服薬、通院の話題も避けては通れないだけに、みんな正直に語り合えることに意義を感じた。
      二つよき ことぞ少なき 藪陰の 涼しき宿は 蚊の多くして